2016年5月20日金曜日

日刊サンコラム21:特別区域について1

ハワイには8つの特別区域(Special Districts)が制定されています。
日本には存在しない概念で、馴染みもほとんどないと思いますので、
複数回に渡っていくつかの特別区域についてご紹介します。

特別区域の目的


特別区域は都市計画の一環です。
利用者にとって快適かつ便利な街並みを推奨したり、歴史や文化を継承させたり、
色やデザインについて制限をかけ、街全体に統一感を出したりすることで、
街全体の価値をあげることを目的としています。

この特別区域はこれらの内容を推奨するだけでなく、
制限をする権限を持っているため、建物を新築・改築する際には、
各特別区域を取りまとめている団体に許可を得なければならず、
訂正を求められた場合には従う義務があります。

ワイキキ特別区域


8つの特別区域のうちの一つがワイキキです。

ワイキキのデザイン制限は多岐に渡っていますが、
基本的にはリゾート地として観光客が快適に過ごせるように、
また、ハワイアンなイメージを維持していけるように制定されています。

例えば、ホテルのロビーは出来る限り外にオープンにし、エアコンは設置しないとか、
オープンスペースにはハワイの植物(モンキーポッドややしの木)を
植えるように推奨したりしています。

また、建築物の色やデザインにも様々な制限があり、
ハワイらしさのあるデザインを取り入れることを義務付けられています。
特に現代的な建築物には必ずハワイアンなロゴがファサードについていたり、
屋根の形状が伝統的な寄棟屋根(屋根の最上部から4方向の屋根面が分かれている屋根)
にしなければならない場合もあります。

Hip Roof
伝統的な寄棟屋根


具体例としては、カラカウア通りで西からワイキキに入るとすぐ右手に見えるAllure Waikikiという高級コンドミニアムです。
1階の柱にはそれぞれハワイアンなロゴが装飾されており、
庭園にはやしの木などのトロピカルな植物がたくさん植わっています。
そして、極めつけが屋根です。高層ビルはフラットな屋根が採用されることが多く、
現にこの建物を設計した建築士もフラットにしようとしたらしいのですが、
特別区域の許可が得られず、伝統的な寄棟屋根となりました。

Allure Waikiki
Allure Waikiki


結果、現代とハワイアンが融合された良い建物になったと思います。
このような建物がワイキキにはたくさんあります。
一度これらのことを気にしながら歩かれてみるとおもしろいかもしれません。



日刊サン 2016年3月2日掲載

2016年5月17日火曜日

日刊サンコラム20:建築士との契約書について



先週は施主と工務店(コントラクター)との間の契約書についてご紹介しました。
意外と知られていない施主の責任や建物の保障について説明しましたが、
今回は施主と建築士の間の契約書についてご紹介します。


契約書の種類


工務店との契約書はあまり差異がなく、
AIAのフォームが使われることが多いとお話しました。

しかし、建築士との契約は、工務店と比べ取引金額がかなり少ないこともあり、
そもそも契約書を結ばない場合や、
設計事務所が独自に作成した簡易な契約書で済ますことが多いのです。

実際、私も設計を請け負う際にはAIAの契約書を使わず、
その都度依頼内容も踏まえた上でよりわかりやすく書き直した
独自の簡易契約書を使用しています。

それでも、基本的な内容はどこもAIAのものをベースにしているので、
大体似たような内容となっています。

工務店との関係性


建築士と施主との契約書の中で最も変わっている点は、
契約の当事者ではない第三者(工務店)が大きく関わってくる点です。

建築士が描いた図面で、実際工事を行うのは当然工務店ですし、
工務店の選定や見積もり、また工事進行時、
終了時と一貫して建築士と工務店は密に仕事をします。

ただし、建築士はあくまで施主の代理人として動くので、
工務店と建築士の間に契約書は存在しません。
よって、施主と建築士の間の契約書に工務店についての事項が数多く記載されています。

設計の順序


建築設計はいきなり施工図面を描くのではなく、段階を追って進めていきます。

最初の段階はSchematic Designと呼び、
漠然とした部屋の配置や大きさ、全体のデザインを決めていきます。

施主から大まかなデザイン面で合意が得られると、
次の段階であるDesign Developmentに入ります。
この段階では、もう少し細かく建材やキッチンのキャビネットのデザイン、
仕上げ、電気・機会図などを決めていきます。

それらがすべてが決まると、最後にConstruction Drawingsに取り掛かります。
この段階になると、構造計算から屋根や床のフレーミングや、
各種詳細図面を仕上げ、それらの図面をもとに工事ができるような状況まで仕上げます。

順序立ててより詳細に図面を仕上げていくので、
逆に最終段階に入ってから部屋の配置やデザインを変更することは非常に困難になり、
多くの場合追加料金を請求されてしまいます。
このようなことにならないためには、
建築士との打ち合わせ等すべての意思決定の場に、
関係者を出来る限り同席させることが最も大切だと思います。

日刊サン 2016年2月24日掲載

2016年5月6日金曜日

日刊サンコラム19:工務店との契約書について



先週は施主と建築士及び工務店(コントラクター)の間で
契約書が交わされていない場合どうなるのかというお話をしました。
その場合には建築業界における一般常識が適用されるのですが、
その常識は何から構成されるのかというと、
 AIA(アメリカ建築家協会)が作成した契約書だと言えるでしょう。
これは最も多く利用されている契約書であるため、
業界における慣習となりつつあります。

今回は二週に渡ってそのAIAの契約書の一部についてご紹介致します。
今週は施主と工務店の間で結ぶ契約書についてです。



AIA A201:工務店と結ぶ契約書の約款


工務店との契約書には、工事の規模及び建物の用途等によって
様々な種類のものがありますが、 
AIAのものにはすべてA201の約款が採用されています。
この約款だけでも16章にもおよび、かなり長いですが、
抜粋して特徴的な内容のみご紹介いたします。

施主の責任について


施主の責任は大まかに3つあります。

1.工費の支払いを滞りなくすること 
2.意思決定をすること 
3.敷地の情報を開示すること。

1、2については説明する必要もないと思います。
3つ目の敷地の情報について注目してみましょう。
敷地は施主の所有物であり、施主が最もよく知っているハズといった考え方です。
敷地の測量及び調査については、
別途、施主(もしくは施主に雇われた測量士)が行う必要があります。
敷地が斜面になっていたり、土壌の状態があまりよくないことが予想される場合には、
きちんと調査することを強くお勧めします。



建物の保障について


一般的な家電や車と同じで、建物にも完成後保障がついてきます。
建材については、図面に明記されていない限り、必ず新品を使用します。
新品でない、もしくは正しく機能していない部分があれば、
無償で直す義務が工務店にはあります。

また、図面及び仕様書の通りにきちんと施工されていない場合、
完成後1年間は工務店が無償にて直すという旨が契約書には記載されています。
建材によってはメーカが保障期間を設けているものがありますが、
それはまた別途保障されます。

建築図面というののは、実は工務店との間の契約書の一部でもあり、
その通りに建っていなければ、それは工務店の責任となります。

(注:筆者は弁護士ではなく建築士であり、
また法的な話はケースバイケースのことが多いので、
詳しくは建築を専門とする弁護士にご相談下さい)