2016年4月19日火曜日

ヨーロッパ旅行記2~パリ郊外編~

学術論文の審査が通り、イタリアの学会で発表することになりました。
(発表内容についてはこちらで簡単に紹介しています)
ついでにロンドンやミラノ、パリにも寄って旅行を満喫してくることに。
10月8日~10月21日の2週間ほど滞在してきました。

更新をサボっており、もう半年も前の旅行になってしまいましたね。。
ヨーロッパ旅行記1はこちらからどうぞ。

二回目のパリは郊外へ

大学生のとき、卒業旅行でヨーロッパ旅行をした以来のパリですが、
当時はドイツ・ベルギーメインだったため、フランスはパリ市内だけしかまわれなかったんです。
2年前の新婚旅行では、スペイン・イタリアとフランスに足を踏み入れることもなく。。
今回ようやくフランス滞在が長めにとれそうだったので、
レンタカーをしてパリ郊外へ足を伸ばしました。

サヴォア邸

パリ郊外には、ベルサイユ宮殿など数多くの名所がありますが、
建築に携わっている者として外せないのがサヴォア邸。

1931年に建てられたル・コルビュジエが設計した近代建築の住宅です。
20世紀最高の作品であり、近代建築というものを定義づけたといっても過言ではないと思います。

外観

サヴォア邸以前の建築といえば、装飾的で重厚な西洋的伝統建築が良いとされていました。
当時の時代背景を考えると、上の写真のようにシンプルでかつ軽やかな建築というのは、
アヴァンギャルドであり、多くの人達に衝撃を与えたそうです。

軽やかさという、今までの流れとは間逆のベクトルに向かったわけですが、
ピロティを使うことで、二階の居住スペースが浮いているかのような感覚を実現しました。

また、梁を使わず、ドミノクラブと柱とスラブで支えており、
水平連続窓(当時は高く・細い窓が主流)もかなり珍しかったハズです。

建材も鉄筋コンクリートを採用しており、当時としては最先端の素材です。
逆に、鉄筋コンクリートが普及したからこそ、
サヴォア邸のような建築が生まれたといっても良いと思います。


玄関前のスロープ

折り返しのスロープ 

室内も綿密に考えられて設計がされており、
1階から2階へのメイン動線としてスロープが採用されています。
2つのフロアを連続的に繋ぐことでシークエンスを形成しています。






その他、室内は外観とはうってかわり、暖かみのある色が使われています。
ところどころ、丸みが帯びた壁があり、これもまた暖かみを表現しているのだと思います。





広々としたデッキ及び屋上もスロープで繋がれており、
上るにつれ高くなる視線を意識したプランニングがされており、シークエンスがとても豊かです。

寒い季節に行ったのですが、夏場に行けばとても気持ちの良いデッキなのだと思います。


当然このサヴォア邸については良く知っているつもりでしたが、
実際行ってみると大分印象は違いました。

近代建築の発祥とも言えるこの住宅は、
思っていたよりも暖かく家庭的なイメージを受けました。

当時にしては考えられないぐらいに開口が大きく、
家のどこにいても存分に光が入ってきて明るいです。

また、オープンフロアで、長いスロープが家の中心にあることによって、
家族の生活が垣間見れると同時に、
家のどこにいても子供達のはしゃぎ声が聞こえるのだろうなぁと想像して少しほっこりしました。




2016年4月12日火曜日

日刊サンコラム18:契約について

今回は少し趣向を変えて、法律及び契約関連のお話をさせて頂きたいと思います。

建物を建てる際には二つの契約が必要


デザインビルドでない場合には、一般的に施主(オーナー)は二つの契約を結ぶ必要があります。
一つは施主⇔建築士の間の契約、
もう一つは施主⇔工務店(コントラクター)との契約です。

一般的に建築士及び工務店が最初に契約書を作成します。
その後、施主もそれを吟味し、双方が合意するまで変更を重ねて完成させます。
契約書の内容は様々で、建物の規模や用途によっても変わってきます。
それぞれの事務所がオリジナルのものを用意する場合もありますが、
AIA(アメリカ建築家協会)が作成したものが広く使われています。

AIAの契約書

よく用いられる契約書についての詳細はまた後日お話しするとして、
今回は契約書が交わされなかった場合についてご説明します。

契約書がない場合には一般常識が適用される


大きなお金が動く場合には、契約書は交わした方が良いのですが、
小さな改築工事の時などは、細かな契約書を作成せずに設計及び工事を行うことがあります。
契約をしていないと双方に拘束力が全くないと思われがちですが、実はそうではありません。

例えば、皆さんは病院に行かれた際に契約書にサインをさせられたことがありますか。
大きな手術をするときには合意書のようなものにサインをすることはありますが、
風邪をひいたときには、順番待ちをしてお医者さんに受診してもらい、
受付に行って受診料及びお薬の代金を支払ったりすると思います。



このときに値段の説明や、支払い義務についての契約書はおろか、
説明すら受けないと思います。
それでも、受診料を支払う義務はありますよね。
また医師側も間違った診断をした際には責任が生じてきます。

これは、一般常識もしくは慣習に基づく行動であるからで、
そこから大きく逸脱しない限り、自動的にこれらの慣習に従う義務が発生します。

建築についても同様です。契約書を交わさなかったとしても、
建築士はきちんと不具合のない建物を設計をし、工事完成まで見守る義務があり、
また、施主は設計料をきちんと支払わなければなりません。

ただし、ここで問題なのが
医師よりも建築士の方が一般的な方にとって馴染みがないということです。

つまり、建築における一般常識が何なのか広く理解されていないことが多いので、
その分気をつけたほうが良いでしょう。

(注:筆者は弁護士ではなく建築士であり、
また法的な話はケースバイケースのことが多いので、
詳しくは建築を専門とする弁護士にご相談下さい)


日刊サン 2016年1月13日掲載

2016年3月23日水曜日

日刊サンコラム17:工務店(コントラクター)について



建築物を建てるとき、改修するとき、また増減築するときには、
まず建築士を雇い図面を完成させ、市に建築許可を得て、
工務店(コントラクター)に工事をしてもらうというのが一般的な流れです。

今日は工務店について少しお話したいと思います。

工務店は免許が必要



建築士が免許を取得する必要があるように、工務店もまた工務店の免許が必要です。
州から認可されていない工務店を利用した場合、
数多くのリスクを抱えることになります。

例えば、無免許の工務店の従業員が工事中に怪我した場合は保険が適用されず、
大本の雇用主となる施主がすべて賠償しなければならない可能性があります。
アメリカの医療費は高額ですので、
最悪数億円規模の賠償金が発生するということにもなりかねません。

建築許可を受け取る際には免許が必要なので、
無免許であったことを施主が知らなかったということはまずありえませんが、
免許があるのかどうかを知っておくだけでもリスクを回避できるので、
念のために確認するとよいでしょう。

免許が必要ない場合とは


工事をする以上、免許を保有する工務店にお願いする必要があると考えて頂いて
概ね間違いはありませんが、一応例外もありますのでご紹介します。

一つは工費が$1,000未満の場合です。
このような小さな工事の場合には、
例外的に工務店の免許がないようなハンディーマンでも行うことが認められています。
ただ、$1,000未満であっても電気や水道に関わる工事が含まれている場合には
認められないので注意が必要です。
壁を一つ追加するだけの場合や、窓を新たに開ける等の工事にこの例外は適用されます。

もう一つの例外は、施主自らが工務店として動く場合です。
自分の家なのですから、自分で建てることは認められています。
その場合には、owner-builder permitを取得すれば出来ます。
無免許の工務店の場合には、こちらの制度を悪用して工事をするケースが
多いようですのでご注意下さい。

また、施主が工務店として動く場合には、工務店の免許は必要ありませんが、
それでも電気と水道の工事には個々の免許保有者が工事をする必要があります。
さらに、建物が完成してから1年間は売ったり貸したりすることが
禁じられているというのも知っておくとよい条件といえるでしょう。

日刊サン 2015年12月30日掲載


2016年3月3日木曜日

日刊サンコラム16:一軒家の決まりごと2

前回、一軒家を建てる際の注意点として一軒家には
一家族しか住むことを認められていないという話をご紹介しました。
今回はその話をもう少し掘り下げ、ゾーニングの話をしたいと思います。

ゾーニングとは


ホノルルのゾーニングマップ 


ゾーニングとはホノルル市及びハワイ州が定めている土地の用途区分です。
例えば、住宅街の真ん中にナイトクラブや、工場が出来たら困りますよね。
毎晩騒音や空気汚染に悩まされることになってしまいます。

そのようなことを避けるために、地域別に建物の用途を制限しているのがゾーニングです。
ゾーニングは大まかに建物の用途や建物の高さ及び密度を制限します。

住宅街のゾーニング


住宅街のゾーニングは最も厳しいものになっています。
妨げなく就寝できるよう、最も静かな環境を守る必要があるからです。

この住宅街のゾーニングは、R3.5、R5、R7.5、R10、R20とあります。
RはResidentialを意味しています。後ろの数字は敷地の最低面積を表しています。
R5であれば、5,000 sqft(平方フィート)以上の敷地でなければならないという意味です。
ただ、5,000 sqftよりも多少小さい敷地もすでに存在している場合には特に問題ではありません。
ここで、もしR5のゾーニングで10,000 sqftもの土地を所有しているとすると、
規定の倍の広さとなりますので、同じ敷地に2軒の家を建てることができ、
個々の家に合法的にキッチンやランドリーを設置することができます。

基本的には上記のような考え方なのですが、その他にもいくつか制限があり、
同じ敷地内において複数軒の家を建てることができない場合もありますので、
まずは建築士に相談をしてみることをお勧めします。

ゾーニングの変更


市や州がゾーニングを変更することは決して珍しいことではありません。
したがって、所有している土地のゾーニングが変更すれば、
建設できる範囲やその種類なども変わってきます。

例えば80年代中盤頃に、海岸沿いのセットバックは40フィートと定められ、
海岸沿線から40フィートのところまで建物を建設することができなくなりました。
その変更以前に建てられた建物で、40フィートより海岸に近い建物はたくさんありますが、
それらは合法になります。

このように、ゾーニングが変更された場合には、
通常それ以前の建物は現状維持を認められますが、
建て直しはもちろん、改築や増築・減築の際に、
新しい法律が適用されるケースもありますので十分に注意が必要です。

2016年2月17日水曜日

日刊サンコラム15:一軒家の決まりごと

一軒家を建てる際、もしくは改築・増築する際には様々な法規が関わってきます。
高さ制限からセットバック、建蔽率などあげていけばキリがないほどのルールがありますが、
今回はその中から、一軒家には一家族しか住むことを認められていないという話を
ご紹介したいと思います。


一軒家に一家族


自分が所有する土地に自分が家を建てるのだから好きにさせてほしい!
というのが大半の方々の考えで、日本では自由度が高いのですが、
米国は少し事情が異なります。

一軒家には、基本的に一家族のみが住むことができます。
二家族住めるようなプランニングは厳しくチェックされますし、
市から変更を要請されてしまいます。
二家族以上住むようであれば、その分火災などのリスクや損害が大きくなるなるため、
規制が一層厳しくなり、タウンハウスやアパート、コンドミニアムとして申請する必要があります。
ほとんどの住宅街ではこれらの複合住宅の申請は許されていないため、
不可能であるケースが多いのです。

ただ、例外としてハワイにはOhana(家族)という制度があります。
二世帯住宅を目的としたもので、ある程度敷地が広い住宅街で認められてます。
これは個々の敷地によって定まっているので、自分が所有している、
もしくは買おうとしている土地が認められているかは、建築士に聞いてみましょう。
もしOhanaが認められていれば一つの土地に二軒の住宅を建てることも可能となります。

一家に一つしか置けないモノ


住宅は一軒でも、内部を無断で分割してこっそりと二家族住んだりできないように、
他にも決まりがあります。

まず、すべての部屋は繋がっていなければなりません
それも、寝室やトイレ、倉庫などを通って他の部屋に行くことは禁じられており、
リビングもしくは廊下を通じて家の中にあるすべての部屋に行き来できる必要があります。

その他にも、キッチンとランドリーは一家に一つずつしか配置することができません
厳密に言うと、ランドリーという部屋が一つしか配置できないというだけで、
同室に二個ずつ洗濯機と乾燥機を設置することは問題ありません。

また、キッチンは一つしか配置できませんが、
バー(Wet Bar)という形態であれば配置することができます。
キッチンには、冷蔵庫・コンロ・シンクが必ず一つずつはありますが、
「バー」であるにはこの三つのうち二つまで(通常冷蔵庫とシンク)しか設置することはできません。
また、カウンターやキャビネットの大きさに制限があるので注意が必要です。

VICTORIA PLASENCIA INTERIORISMO の アクセサリー&デコレーション Bar

これらの制限は、二家族以上住むことを目的としていない場合でも、
引っかかるケースが数多くあります。
一軒家の新築・改築・増築ご計画の方は、根を詰めて考え出す前に、
自分達が計画しようとしている住宅は法規的にも実現可能なのか、
一度建築士にご相談されてはいかがでしょうか。

日刊サン
日刊サン 2015年12月2日掲載

2016年2月4日木曜日

日刊サンコラム14:屋上農業について

手前味噌で恐縮ですが、
先日提出した学術論文が国際学会の審査を通過したため、
今年の開催地であるイタリアに赴き発表をする機会を与えていただきました。
そこで今回は、学術ジャーナルに掲載される内容の触りを少し紹介させて頂きたいと思います。

イタリアでのプレゼンの様子

屋根のポテンシャル


屋根の役割というのは、その下にある建物内部を雨風等から守り、
太陽光・熱を遮るために存在しています。
この屋根の上に何かを載せて付加価値をつければ、建物の所有者はもちろんのこと、
都市全体として多大なるメリットを享受することができるのではないでしょうか。
都市部における屋根が占める面積というのは、都市全体の面積の1/3程度もあります。
そのすべてを緑化したときの影響力は計り知れないものがあります。

小栗建築設計室 の ラスティックな 家 緑の屋根

屋上緑化のメリット


大都市の問題点は主にコンクリートの多さに起因しています。
特にハワイにおいてはその影響を肌で感じることができます。

例えば、雨水は通常土の中に染み込んでいき、
時間をかけて河川や地下水、また海へと流れていきます。
ただ、都市部においてはコンクリートが地面のほとんどを覆っているため、
土に染み込むことなく下水へと流れていきます。
そのため、強い雨が降るとすぐにFlash Warning(洪水警報)が
出るのは皆さんご存知かと思います。
また、コンクリートは熱帯夜を引き起こす「ヒートアイランド現象」の主な原因にもなっています。
都市部の1/3もの面積を占める屋根をすべて緑化することで、
劇的に都市部特有の問題を軽減することが可能になります。
他にも屋外の防音・断熱の役割を果たしたり、空気の浄化を手伝ったりと、
屋上緑化の利点は数多く挙げることができます。

都市農業のメリット

屋上でせっかく植物を育てるのであれば、
食べられるモノ(農作物)をつくった方が有意義ではないかというのが私の主な論点です。
農作物であっても上記にあげた利点はすべて享受できます。
単なる芝を育てるわけではないので、その分手間もかかりますが、
逆に言うと、その分雇用の機会を増やすことにもつながりますし、
もちろん利益を生むことも可能です。

FCD の モダンな 庭 屋上菜園

また、短時間の農作業をすることによって、
現代人のストレスは飛躍的に軽減することも知られており、
さらには、食料自給率を上げます。
ハワイや日本のように食べ物を輸入に頼っている場合、
震災時や有事の際に致命的な状況になるだけでなく、
送料や関税により値段が高い上に、
運ぶときに必要なエネルギーを考えるととてもエコだとは言い難いでしょう。

都市部で農作物を作ることが最も効率的でかつエコであることは明らかなのですが、
唯一の問題は地価の高さです。
そこで、今まで利用されていなかった屋上を利用すれば、
その点は難なくクリアできると私は考えます。

緑あふれる自給自足の大都市…
そんな街にいつかなればいいなと夢見ています。

日刊サンコラム14
日刊サン 2015年11月4日掲載

2016年1月5日火曜日

日刊サンコラム13:建築士になるには

建築士になるには


Architect

今週は少し趣向を変えて、
建築士になるにはどうしたら良いのかということについてご紹介したいと思います。
日本では、木造の住宅や小規模な鉄筋コンクリート造などの建物の設計
及び工事監理をすることができる二級建築士と、
それ以外の大規模な建物も設計できる一級建築士とに分かれています。

アメリカでは、そのような区別はされておらず、
Architect(建築士)の資格があればどのような建物も設計する権利があり、
また、資格がない場合には有資格者の管理下で設計をする必要があります。

必要な学位



degree

資格をとるためには、まず大学(ほとんどの場合大学院)を卒業し、
NAAB(全米建築課程認定委員会)に認定されたプログラム
(B.Arch, M.Arch, D.Arch)のいずれかの学位を取得する必要があります。
現在日本には、一校もNAABに認定された学位が取得できるところはありません。
ただ、通常よりも長めにインターンとして働くことで、同等な権利を得ることができます。
ちなみにハワイでは、唯一ハワイ大学マノア校に認定された学位があり、
7年間のプログラムになっています。

インターンシップ


最低2年間(通常3年以上)のインターン経験が必要となります。
ただただ設計事務所で勤務していれば良いというわけではなく、
NCARB(建築家登録委員の評議会)に逐一報告する義務があり、
また規定に沿った万遍ない業務を経験する必要があります。

例えば、2年間ずっと模型作りをしていたとしても、
それはインターンのほんの一部しか経験をしていないという扱いになり、
その他見積もりや施工図面作成なども経験しない限り、
一生インターンシップを終えることができません。
色々な業務に携われるかどうかは就労している設計事務所の理解が大きく必要となります。

筆記試験

ARE

7年程度で学位を取得し、3年前後かけてインターンを終えて、
ようやく建築士試験の受験ができるようになります。
試験は合計7つあり、個々に選択問題と作図に分かれています。
それぞれ5時間前後要する試験を7つすべて合格する必要があります。
これら3つ(学位・インターン・試験)をすべてクリアして、
晴れてArchitectと名乗ることができるようになり、また業務をする権利が得られます。
州ごとに若干決まりが異なる点があり、
カリフォルニア州は追加でもう一つ試験を受験する必要があります。
ただ、それ以外は基本的に全米どこででも建築士の免許を取得することができます。

とても長い道のりに聞こえるかもしれませんが、
安全かつ快適な建築物を建てるにはたくさんの知識や経験を要するので仕方がないのかもしれません。
ただ、最もやりがいのある職種の一つだと思いますので、
もし志したいと思う方がいれば喜んでご相談に乗ります!