2025年9月10日水曜日

日刊サンコラム74:オーナービルドについて

知り合いのハンディマンに工事を依頼したり、ご自身で工事をする等、
 免許を持っていないコントラクターが工事を行うことは可能なのかと、
最近よく相談を受けます。
 そこで今回は、「オーナービルド」という方法をご紹介致します。 

オーナーの全責任なら無免許で工事を行うことはできるが非推奨


結論としては、コントラクターの免許がなくても工事を行うことができます。
ただ、その条件として、すべての責任をオーナーが負う必要があります。
コントラクターは工事をする部材を買ってきて組み立てるだけの人ではなく、
様々なサブコントラクター(下請け業者)を雇い、
指揮するという重要な役割を果たしています。
なので、そのような経験がない方や、
委託できるような知り合いがいない場合にはとてもリスクが高いためお勧め致しません。

また、サブコントラクターも含め、すべての責任がオーナー自身にかかることのリスクの例をいくつかあげてみましょう。
例えば、工事中に不慮の事故が起きた場合の保障や、
インスペクターをしかるべきときに呼ぶ義務。
また、オーナーであっても建築許可図面に忠実に施工する必要があり、
デザインを変更した場合には再度建築許可を取得しなければならない可能性もあります。
特に、誰かが屋根から落ちる等して大きな怪我をした場合には
数百万ドルもの賠償金を支払わなければならない事態に至る可能性もありますので、
保険に入ることは絶対に必要です。 

 電気と機械だけは要資格保持者が必要 オーナービルドであっても
電気工事士と機械工事士(配管や空調)は必要となってきます。
もちろん、電気と機械工事が絡まないような工事内容であれば必要はありませんが、
オーナーであっても無資格者が触れることは許されておらず、
建築許可書を受け取る際に、電気と機械工事士の署名付きの書類を用意する必要があります。

一年間リースやリセールができない 


 免許保持者が工事を行っていない場合、建物の信頼性に疑問があるため、
工事完成後1年間は貸したり売ったりすることができません。
また、1年以内はオファー(広告など)も出すことができませんので注意が必要です。
ただ例外として、工事内容が$10,000未満の場合や
自分の会社の従業員であれば1年未満であっても貸したり売ったりすることは可能です。
 その他、オーナービルドであっても各種法律に準拠しなければならず、
知らないうちに法律違反をしていたなんてことは良くあります。
工事のやり直しを命じられるだけでなく、
罰則もありますので結局コントラクターを雇うよりも高くついてしまったなんてことになりかねません。
少し節約をしようとして大きく損することは十分にありえますので、
きちんと免許を保持しているコントラクターに依頼されることを強くお勧め致します。

日刊サンコラム74:オーナービルドについて



2025年9月2日火曜日

日刊サンコラム73:不動産(中古物件)を買う際の注意点2

前回は、不動産を買う際には建築申請の状況やアスベスト、鉛を含んだペンキが使われているかということを気をつけないといけないということをご紹介させて頂きました。
今回はその他に注意すべき点を建築士の視点からいくつかご紹介させて頂きます。

とにかく隅々まで見る・試す


中古のモノを買う際は、車でも何でもそうだと思いますが、基本は「すべて試してみる」ということです。
ドアや窓は全部開け閉めをし、電気もすべてつけてみて、水道もお湯を出してみたり、
バスタブに水を溜めてみたり、動くものはすべて動かしてみて下さい。



そこで少しでも違和感があったら徹底的に調べます。
気になる点があった場合、できれば建築士や工務店等、専門家を呼ぶことをお勧めします。
例えばドアが開きづらいものがあった場合、
単にヒンジが錆びているだけなら良いのですが、建物全体がゆがんでいる可能性があります。
また、内外壁に斜めにヒビが入っている場合も同様です。
傾いた建物を直すのは大掛かりな工事が必要となりますので、購入を見送っても良いですし、
また、その点を交渉材料にし値引きを試みるのも自由です。

また、ハワイではシロアリ被害がとても多いので、特に気をつけましょう。
もちろん、購入時にInspectorと呼ばれる検査員が調査しますが、
チェックリストに従い現状を報告するにとどまります。
何か問題点を発見した場合、その問題から派生するさらに大きな問題や、
原因となるものまではやはり通常教えてもらえない場合が多いので、
個人でさらに調査をするか判断をしたほうがよいでしょう。


築年数に注意


当然ですが、古ければ古いほど注意が必要になります。
すぐに建て替えてしまう日本とは違い、建物の平均寿命が非常に長いので、
築50年以上の住宅・コンドミニアムはそこら中にあります。

しっかりとリフォームされていれば、新築よりも安く、
快適に住むことができるので人気があると思います。
ただ、どれだけメンテナンスをしていたとしても、建材には寿命があります。

例えば鉄筋コンクリートの寿命はきちんと施工されたとして80年~100年といわれています。
また、海岸部では塩分がコンクリート内部に侵食し鉄筋と反応することで通常よりも早く腐食されてしまいますので、
購入時にはこれらの内容も踏まえた適切な判断が必要でしょう。

専門家を雇う必要は?


一般的に自分でチェックしてみて気になる点がなければわざわざ雇う必要性はあまりないと思います。
ただ、大規模な建物や、商業利用の場合には一度相談されることをお勧めします。
建物によってはレストラン等に改築することが非常に困難な場合や、
また、立地によって不可能な場合もあるので十分に注意しましょう。

日刊サンコラム73:不動産(中古物件)を買う際の注意点2


2023年1月6日金曜日

日刊サンコラム72:不動産(中古物件)を買う際の注意点1

 今回は、不動産を買う際に気をつけないといけないことを
建築士の視点からいくつかご紹介させて頂きます。

建築申請の状況については必ず確認


建築許可の申請をせずに違法な工事をしている物件は、
多々見受けられるので十分な注意が必要です。

不動産取引の際でも、売主や買主のエージェントでさえ
違法であることを知らないケースが多く見受けられるので、
買い手側がきちんと調べて確認することが大切です。

Notice of Violation

 

知らずに購入をすると、その責任は買い手側にうつります。
今度売りたいときに知識のある買い手に調べられ、
値引き交渉の大きな要因となるだけでなく、
許可申請されていない物件にはローンの審査がおりないものも多数あるので、
買い手の幅が狭まります。

代表的なのは米軍関係者用のローンで、こちらは物件への審査が厳しいです。
購入前に建築許可を取得していないことがわかれば、
購入後に認可を得るためにかかる費用を算出し、
その分の値引き交渉をするということも可能になります。

アスベストや鉛(lead)を含んだペンキがあるか注意


人体への悪影響が懸念され、アスベストは1973年に、
鉛を含んだペンキは1978年に、それぞれの使用が違法となりました。

ハワイにおいて築40年を超える物件では、これらが含まれている可能性が非常に高いのですが、
だからといって買わない方が良いというわけではありません。

アスベストが違法となった経緯としては、
施工していた業者の従業員が健康を害したことが発覚し、
それに伴ってその使用が禁じられることになったのです。

一旦施工され、乾いた状態では人体には影響はありません。
ただ、それらを撤去する際には、
再度空気中を舞うので必ず専門業者に依頼する必要があります。

ポップコーンシーリングの除去
 

よく見られるものはポップコーンシーリングですが、
壁や床材などに含まれていることも多々あります。

購入後、改築や増築等をする予定がある人は、
撤去する際に通常よりも少し手間とお金がかかってしまいます。
また、そのようなことを知っていれば、
売主との交渉にも使えるかもしれませんね。

反対に、売主側からの視点で見れば、
アスベストを撤去してから売りに出せば少し売りやすく、高値になるかもしれません。

日刊サンコラム72:不動産(中古物件)を買う際の注意点1


2022年6月9日木曜日

日刊サンコラム71:建築にかかる期間について

 増築、改築、新築を問わず、建築はとても時間がかかります。
日本のようにはいかないため、もっと早めに計画しておけばという声をよく聞きます。
特に新築であれば2年以上かかることはざらにあります。

増築、減築、改築では大した差はない

延べ床面積が増えるのか減るのか変わらないのかの違いになるわけですが、
アメリカの建築基準法において、
それらの建築許可申請のプロセスにあまり差はありません。
ゾーニングによっては外観が変わるのかどうかで許可申請が増えることはありますが、
それはワイキキ等の特殊な地域に限ります。



例え延べ床面積が変わらないとしても、
総工費が$1,000を超える場合にはすべて建築許可が必要となり、
住宅の場合には6ヶ月〜9カ月ほどかかり、
第三者機関を利用したとしても3〜5ヶ月ほどかかります。

増改築のプロジェクト

新築は時間がかかる


規模に寄らず、新たに建物を一から建てるにはデザインに時間がかかるだけでなく、
許可申請にもかなりの時間を要します。
ePlanという電子ファイルでの申請しか認められておらず、例年非常に時間がかかっており、
申請だけでも一年以上を要することがほとんどです。

新築プロジェクト


第三者機関を用いれば、増築の場合とほぼ変わらない期間で許可がおりるため
大変お勧め致します。
ただ$3,000〜$6,000ほどの費用が追加されますので、
予め予算に組み込んでおくとよいでしょう。
もしくは、計画段階から1年以上待つことを前提に心づもりをしていれば、
時間はかかりますがそれだけ節約ができるという考え方もありだと思います。
許可が降りるのを待っている間に出来る限り貯金をして、
好みの家具を揃えたり電化製品を新調したりするのも良いですね。


*2022年6月現在では、すべての住宅のプロジェクト(増改築を含む)にて
ePlanでの申請が必要となっており、期間は第三者機関を通さない場合は
どちらも変わらず9カ月~1年ほど要します

2022年1月12日水曜日

日刊サンコラム70:国による建築士の違いについて

 先日、建築ジャーナルという日本の専門誌で執筆させて頂く機会があり、
ハワイでの建築設計事情について綴らせて頂きました。
私以外にも各国の建築士が執筆しており、興味深かったので少しだけ紹介させて頂きます。

建築士になるためのステップが全く異なる


ハワイに限らずアメリカの場合には、
建築学科の大学・大学院を卒業後、最低3年間のインターンシップを経た後に
6つの建築士試験に合格しなければ建築士になることはできません。

イギリスも似たような感じになっているようですが、
フランスは5年生の大学を卒業するだけで資格を得ることができます。

反対にドバイに至っては、
UAE国籍保有者でなければ建築許可申請業務を請け負うことが出来ない等、
大きく違いがあるようです。

ほとんどの国に景観法が存在する


先進国ではほとんどが景観法と呼ばれる、
近隣の景観を守るための法律が存在しています。

ハワイも類に漏れず、ワイキキでは自然色のみを使うことが許され、
ハワイアンなデザインやロゴが義務付けられています。

Waikiki Beach Walk


イギリスでも同様に厳しくコントロールされており、
計画許可の決定がなされる前に計画内容を公開し、市民からの意見聴取も行うようです。
その点、日本はかなり自由度が高いと言えます。

歴史的建造物の保護


世界遺産の状態を維持していくというのはとてもわかりやすく常識的ですが、
特に遺産として認定されていない建物についてどう対応するのかは、
国によって大きく異なります。

日本では驚くほどに自由ですが、
ハワイにおいては築50年を超える建築物に関しては、
どのような用途・状態の建物であれ、別途役所に申請する必要があります。
申請が必要というだけで、却下されるケースはほぼありませんし、
場合によっては写真や図面を作成し、保管することがあるという程度ですが、
それらの建物の現状を常に把握しようという努力が感じられます。

イオラニ宮殿


さらに、古い建物がとても多いイギリス、フランス、イタリア等では
より厳しく管理されているようです。
例え自分が所有している土地であったとしても、
家を建て直すことは認められず、
周りの環境が保たれる範囲に限り改築が許されるという程度なのです。

このように、建物に対する価値観は国によって大きく異なりますので、
ハワイを含め、海外で建物を買ったり、改築・新築する際には、
その国の文化や法律を少し学ぶ必要があるでしょう。




2021年7月9日金曜日

日刊サンコラム69:エコ建築は高額になるのか ー カカアコのKeauhou Laneについて

2018年4月27日にカカアコにオープンした
オーガニックスーパーのDown to Earthについてご存知の方も多いかと思います。
Keauhou Laneというコンドミニアムの1階に位置しているのですが、
今回はそのKeauhou Laneについてご紹介します。

中低所得者向け賃貸物件

Keauhou Laneはホノルルの平均所得を下回る世帯のみが
賃貸する権利を得ることが出来る少し特殊な物件となっています。
ホノルルの地価高騰により、
あらゆる所得層が住まいを確保できるように制定されたプログラムです。

Keauhou Lane
Keauhou Lane


SALT等、徒歩圏内にたくさんの商業施設があり、
今後のカカアコ地区の発展を考えてもとても良い物件であると思います。

コンドミニアムではオアフ島初のLEEDプラチナ


Keauhou Laneはオアフ島のコンドミニアムで初めて、
環境に配慮した建物に与えられる認証システムLEEDの
最高評価であるプラチナを授与されました。



一般的にエコ建築というと、
工費も高くラグジュアリーなイメージになりがちですが、
今回のような中低所得者向けの賃貸物件で認証されたことにより、
イメージ改革にも繋がりとても素晴らしいことだと思います。

ちなみに、同じくカカアコ地区で
Howard Hughes Corportaionの開発でもLEEDプラチナを授与されましたが、
これは近隣開発(Neighborhood Development)についてであり、
今回の認定は建物そのものに授与されたもので、
どちらも素晴らしいことですが少し異なります。

エコ建築はランニングコストを下げられる


エコ建築にする方法は多数あります。
施工費が高くなるようなものが正直多いのですが、
運営費(ランニングコスト)が下がるものばかりです。

身近な例ですと、白熱電球とLED電球はわかりやすいです。
白熱電球はLEDよりとても安く買うことができますが、
寿命が短く、電気代も多くかかります。
10年スパンで計算してみるとLEDの方がはるかにお得なのは明らかです。


同じような考えでソーラーパネルを大量に屋根に設置したり、
雨水を溜め込み、フィルターを通してキレイにして再利用するシステムを
導入する等すれば、地球に優しいだけでなく、
光熱費も飛躍的に下げることができます。

Keauhou Laneでは、上記の事柄はもちろんのこと、
植栽についてもハワイ産の植物を植えることで
必要最小限の水やりで育つようにしたりと細部にまで工夫が施されています。

ご自宅でも新築・改築される際には、
お得にエコなことができないか建築士と相談することをお勧めします。

コラム69:エコ建築は高額になるのか ー カカアコのKeauhou Laneについて
日刊サンコラム69:エコ建築は高額になるのか ー カカアコのKeauhou Laneについて




2021年2月27日土曜日

日刊サンコラム68:家を増築する際の注意点

 最近一軒家の増築の依頼が多いので、
今回は増築に関する主な注意点についてご紹介させて頂きたいと思います。

長期的な需要と目的をしっかり考えて計画


増築する主なきっかけは家族の増員です。
増えた家族のために寝室やトイレを増築しようという話になるわけですが、
どのぐらいの期間で何人住むことになるのかを推測することはとても大切です。

新生児であれば一般的に18~22年程度は同居すると考えますが、家はそれ以後も残ります
子供が巣立った後に増築した家をどうするのかといった
長期的な視点で考えるととても有意義な計画をすることができます。

大きな家が必要なくなったら買い換える


子供が巣立った後は、増築した家を売ってしまい、
小さな場所を買うというのも良い選択だと思います。
その場合には、少しでも売値が下がらないように
出来る限り一般受けのしやすいレイアウト・デザインにすることをお勧めします。

日本人にとっては良くても、ローカルにしてみれば
大きなマイナス査定である要素はたくさんあるので注意が必要です。

住宅の一部を貸し出す


使わなくなった家の一部を貸し出し、不労収入を得るという手段もあります。

その頃には退職している可能性もありますから、
生活を支える収入源としても期待できます。

ただし、その場合にはADU(Additional Dwelling Unit)として
建築許可を申請しておく必要があるので注意して下さい。

増築時に申請をしておけば、
居住人数が変わったときにいつでも貸し出したりすることができますし、
一軒家の場合にはキッチンは一つしか配置できないという制約も、
ADUでは二つ置くことができるので、
二世帯住宅にすることも容易でとてもお勧めです。

具体的にどういった増築をすれば良いのかわからない場合にも、
建築士に話してみれば考えもつかなかったアイディアを提案してもらえるかもしれないので、
まずは相談してみましょう。


日刊サンコラム68:家を増築する際の注意点