2019年8月12日月曜日

日刊サンコラム58:WELL Buildingについて

快適な労働環境を構築するために2014年にWELLという認証プログラムが開始されました。

人々は、90%もの時間を建物の中で過ごしています。
その建物の可動性、空気の質、食事、そして職場でのストレスというのは
人々の健康に多大な影響を与えます。
その事実を受け、広義での健康を維持できる建物であるかどうかを検証し、
認証するのがWELLなのです。

建物の認証プログラムというと、
LEEDというものをご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、
LEEDは住環境や地球環境に特化しているので別物ですが、
プロセス等はとても良く似ています。
LEED AP同様、WELLにも専門の資格であるWELL APというものが存在します。

WELLとは何か


主に職場環境の改善を目的としてInternational Well Building Institute (IWBI)という機関が始めた制度です。
医師や科学者等の専門家を交え、建物のデザイン、環境、健康、行動について
7年以上にもわたって研究されて、7つのカテゴリーに分けて分析されました。
そのカテゴリーはAir(空気)、Water(水)、 Nourishment(栄養)、Light(光)、
Fitness(運動)Comfort(快適性)そしてMind(精神)となります。

WELLの種類


認証プログラムは三種類に分かれており、
新築及び既存の建物、新築及び既存の内装、そしてコアシェル構造になります。
要件を満たすごとにポイントを得ることができ、
一定以上になるとシルバー、ゴールド、プラチナと高いランクの認証を受けることができます。
Well Buildingの認証の種類


何のためのプログラムか


こういった認証プログラムは、設計者にとって多大な負担になります。
100個近い要件をそれぞれ見直し、
一つでも多く得られるように検証及びデザイン変更を何度も何度も繰り返す必要があります。
そのため、設計料も高くなります。

ただ、このプロセスこそがこのプログラムの本質です。
デザインや利便性、効率のみに着目して設計するのではなく、
建物で働く労働者の環境や健康を考え、
デザインを改善していくことで労働者が健康になり、
仕事の効率が上がり、業績も向上することを目的としています。

また、会社がWELLの認定を受けているということで、
その会社は従業員の健康を重んじているとしてイメージアップにも繋がることが予想されます。
まだまだ発足して間もない制度ですが、
だからこそ会社のブランドイメージ向上も兼ねて一足先に採用してみてはいかがでしょうか。
日刊サンコラム58:WELL Buildingについて

2019年7月29日月曜日

日刊サンコラム57:侵食・土砂管理についての新しい法令が施行

今年(2018年)8月よりホノルル市では建築許可申請の際に
新たにErosion and Sediment Control Planというものが必要になりました。
新たな制度の意義や、今後建築を改修・増築・新築する際に
どのように影響を及ぼすのか簡単にご説明致します。

土砂が流れないように計画・監視が必要


本制度は工事中及び工事後に敷地内の土が外に(下水に)流れていかないように計画し、
有資格者が工事中は計画通りに遂行されているか
30日に1回観察及び記録をしなければならなくなりました。

基礎を打つ際に敷地の土を掘り起こしますが、
その土をそのまま放置していると雨風で舞ってしまい、
道路や近隣に流れていってしまいます。
そのようなことを防ぐために、きちんと土は敷地内にとどまるようにフェンスを立てたり、
カバーをしたり、植栽を植えて安定させたりする必要があります。
Erosion Control

土壌に少しでも触れるような工事はすべて必要*


室内のみの改築以外はすべて影響すると考えて問題ないと思います。
フェンスを立てるだけでも、柱を一本追加するだけでも本制度は適用されます。
低いフェンスの設置や小規模なランドスケープを施す場合等、
建築許可が必要ないようなほんの小さな工事でも土砂管理の計画をしなければなりません。
基本的に建築士がすべて行う業務となりますが、
1 acreを超えるような大規模な土壌改善となると土木技師が行う必要がでてきます。
かなり手間のかかる作業となりますので、
今後の設計料は少し値段が上がることが予想されます。


*2019年3月より変更され、120sqft未満の工事であれば免除されることになりました


環境を考えると非常に大事


ハワイの建築はただでさえとても高いのに、
さらにお金も手間もかかる制度が追加されました。

ただ、これは環境問題を考えるととても有意義な制度です。
ハワイに大雨が降ると大量の土砂が海に流れてしまい、
空から見ると島の周り全体が茶色く濁るそうです。


この土砂には車のオイルや薬品等、様々な汚染物質が含まれており、
それらが海に流れ出てしまうことによる環境汚染は計り知れません
土砂を下水や海に流さないことによって海をキレイなままで保てことは
長期的な視線で見るととても有意義な制度だと思います。



日刊サンコラム57:侵食・土砂管理についての新しい法令が施行

2019年6月21日金曜日

日刊サンコラム56:建築許可にかかる所要時間について

建物を新築、増減築、改築する際に不可欠な過程であり、
かつ大きなネックとなりうる建築許可を取得するまでの所要時間についてご紹介します。
ホノルル市役所は深刻な人員不足に直面しており、
認可が下りるまでに非常に時間がかかってしまいます。

建築許可

まだお金が貯まっていないから1年貯めて来年から計画しよう…と考えていると、
完成するのは今から3年後ということにもなりかねません。
とても長いプロセスですので、予め知っておくと無駄な時間を過ごすことなく計画的に行動することができるでしょう。

新築か改築か、また商業施設かで大きく異なる


建築の規模でももちろん認可が下りるまでの所要時間は変わるのですが、
新築なのか改築(増減築)なのか、
また住宅なのか商業施設かでも大きく変わってきます。
まず最短は住宅の改築です。
時期にもよりますが、1~4ヶ月程度でおりる場合がほとんどです。
その間にコントラクターを探したり、冷蔵庫や洗濯機を探したりできるので、
期間的にもちょうど良い具合になります。

ただ、改築であっても商業施設の場合は別です。
役所内では住宅と別のルートを辿ることになるので、
特に何も問題がなかった場合で半年ぐらいは覚悟した方が良いです。

ちなみに、商業施設というのはレストランやリテール、オフィスはもちろんですが、
3軒以上の繋がった住宅も該当します。
よって、アパートやコンドミニアムの改築も含まれるということなので注意が必要です。

コンドミニアムも商業施設扱い


新築の場合、ホノルル市ではePlanというオンラインのシステムを利用しなければなりません。
紙面ベースではなくコンピュータを用いた許可申請プロセスのため、
そのシステムを利用できる役人が少ないのか、非常に時間がかかります。
こちらは今現在最低でも1年はかかると思っていただいた方が良いと思います。
そんなに待てないという方は、
Third Party Reviewerと呼ばれる民間の認可を受けた企業に別料金でレビューをしてもらい、
期間を短縮することができます。

Neighborhood、AOAOの認可も必要

コンドミニアムであれば、その管理者からの認可も必要となり、
認可がおりなければ着工することができません。
また、ワイキキやダイアモンドヘッド、チャイナタウンといったSpecial Design District内の物件では、
外観のデザインレビューが通常の建築許可に加えて行われるため、
通常よりも時間と手間がかかってしまいます。

建築許可が下りる前に工事をすることは可能*

ホノルル市もあまりに許可に時間がかかることは良く理解しており、
その打開策として許可が下りる前に工事をすることを認めています。
早めに工事を始めたければCourtesy inspectionというものを申請し、
認可されれば許可が下りずとも工事をし、
工事途中で行われなければならないInspection(検査)も受けることができます。  
*2019年1月よりこちらの制度についてはなくなってしまいました。
すべての工事において建築許可がおりてからでないと行うことはできません。

一般的な例を挙げましたが、建築は個々に大きくことなりますので、
具体的なことはきちんと建築士までご相談下さい。

日刊サンコラム56:建築許可にかかる所要時間について

2019年6月7日金曜日

日刊サンコラム55:エレベーターについて

今回は様々なエレベーターについてご紹介致します。
高齢化に伴い、バリアフリーの住宅をお考えの方も多いと思います。
また、大規模建築の計画の際にエレベーターは必須です。
一言にエレベーターと言っても種類があり、
それぞれ利点・欠点があるので選定には注意が必要です。

油圧式エレベーター(Hydraulic Elevator)


カハラモール駐車場のエレベーター

最も安価なエレベーターの種類です。
最下層にピストンを設置し、その部分に油を注入していくことで圧力を上げ、
油圧をもって貨物・人を上階に運ぶシステムです。
油圧を利用しているため、最高で8階程度までしか持ち上げることが難しいうえ、
速度も遅いことが大きな欠点です。
また、稀にその油が漏れてしまう事故が起き、
その際の清掃及び修理は大変ですが、
特に何もなければメンテナンスは非常に安価で済みます。

ただ、ランニングコスト(電気代)は他のものに比べて高いと言えるでしょう。
身近な例ですと、カハラモールの駐車場のエレベーターが
こちらのタイプを採用しています。

トラクション式エレベーター(Traction Elevator)

プリンスホテルのエレベーター

ロープで箱を吊るし、最上階上部に滑車・モーターを置き、
反対側には錘でバランスを保っています。
錘があることによって、少ないエネルギーで上下することが可能になっています。
また、滑車部分にギアを配備することで、
モーターの回転数以上に速度を出すことができ、
現段階で最も早く安定した運行をすることができます。

ただ、ロープや滑車の点検は定期的にする必要があり、
メンテナンスコストは高いですし、
イニシャルコストも油圧エレベーターに比べると高くなります。
超高層ビルの場合にはロープをカーボンファイバー製にすることで耐久性を増す等、
色々と工夫が施されています。

機械室がないエレベーター


油圧式エレベーターは最下階の下に、
逆にトラクション式は最上階の上に機械室が必要となります。
高さ制限がある場合や、地下を掘るのが困難な場合には採用が難しいでしょう。
そのような場合にはエレベーターシャフトの側部に機械室を設置できるタイプのものがあります。
トラクション式とイニシャル・ランニングコストは大して変わりませんが、
エネルギー効率はこちらの方が良い傾向があります。
移動スピードはギアのあるものに比べると劣りますが、
油圧式エレベーターの倍ぐらいの速度を出すことが可能です。
エレベーターシャフトの中にモーターが配置されるため、
建築基準法で危険と判断された経緯があり、その結果普及はあまりされていませんが、
今では安全に利用することができ、
中層ビル(250フィート程度)に設置することがお勧めです。

日刊サンコラム55:エレベーターについて

2019年4月25日木曜日

日刊サンコラム54:用途変更をする場合の注意点

先日不動産屋さんから用途変更に関する質問を頂いたので、
主な注意点についてご紹介致します。

その土地を所有しているからといって自由に用途を変更できるわけではなく
様々な視点から変更できるか確認しなくてはならないため十分な注意が必要です。

ゾーニングが認めているかどうか


まずはその土地のゾーニングが何かを調べることから始まります。
住宅地はかなり用途が限られてきますが、
カカアコやワイキキといったMix Useのゾーニングであれば様々な業種に変更することができます。
これは大きく分けて、申請なしで認めている場合要認可の場合認めれられない場合の3種類に分けられます。

建物のオーナー、管理組合が許可しているかどうか

コンドミニアム1階にあるレストラン

オフィスやコンドミニアム等、建物の中の一部を用途変更することはもちろん可能です。
例えば1階のリテールをレストランにするといったことです。
建物の決まりとして認めていないのであればそれを曲げるのは難しいでしょう。
月例ミーティングでプレゼンテーションをして、
その場で多数決をとり認めるかどうかを決める建物が大多数です。

建築的に可能かどうか


特にレストランに変更する場合には細心の注意が必要です。
換気ダクトやグリーストラップ(油水分離阻集器)を新設しなければならず、
そのスペースがあるかどうかが肝になってきます。
また、営業するにあたって隣接するトイレが必要な場合も多く、
上水下水が近くまできていない場合にはかなり大規模な工事を要され、
実質不可能になる場合があるので注意が必要です。

駐車場の数は足りているか


用途によって要求される駐車場の数は変わってきます。
例えば居住目的の場合には、600sqftまでの広さに対して駐車場が1つ必要ですが、
デイケアの場合には350sqftにつき1つ必要です。
これは個々のテナントにいくつ駐車場がついているかではなく、
建物全体の必要数に対し同敷地内にいくつ駐車場があるのかという計算になるため、
同じ建物内で貸し出している駐車場を月極で契約をして使える駐車場を増やしたとしても問題解決にはなりません。

その他にも異なる用途同士を遮る壁は防火壁でなければならない等の細かな決まりがいくつもありますので、
用途変更する前提で不動産を契約される際には決める前に一度建築士に相談されることをお勧めします。

日刊サンコラム54:用途変更をする場合の注意点

2019年4月11日木曜日

日刊サンコラム53:歴史的建造物として自宅を登録

日本と比べると、ハワイは古い建物がとても多いと感じる方は多いのではないでしょうか。
実際、築50年以上の建物も多く、一軒家やコンドミニアム、
商業施設と多種多様の古い建物が街中に存在しています。
その背景としては、根底に不動産の査定方法があります。

日本では、築年数で建物の価値が自動的に下がってしまいますが、
ハワイではきちんとメンテナンスされていれば下がるどころか、
どんどん値段が上がっていきます。
そのため、建物を大切に使い、また積極的に改修工事を行う傾向があります。

その結果、古い建物が取り壊されることなく、多数が健在する街並みが見られるのです。モノを大切に使うというのはサスティナビリティの基本であり、とても素晴らしいことです。

築50年から歴史的建造物扱い


ホノルル市の規定によると築50年以上の建築物は歴史的建造物という扱いになり、
改築・増築時に専門の部署に許可申請をする必要があります。
これには、歴史的価値のある建物を保護する目的があるのです。
特に改築を妨げるような働きをする部署ではなく、
無自覚に歴史的価値のあるものを壊さないようにすることを目的としています。

Historic Siteに登録

イオラニ宮殿

もし、ご自身がお持ちの建物が歴史的に価値があるものであれば
National Registerに登録をすることができます。
建物のデザインや構法が昔のものであるとか、
昔のコミュニティーの様子を表している等、明確なものからとても曖昧なものまで幅広くあります。

例えば、街並みでいえばハレイワの建物群といったものや、
個別の建物であればイオラニ宮殿が代表的かと思いますが、
その他にもマノアの一軒家等、一見それほど特徴がなさそうなものまで登録されています。

もし登録をすると、固定資産税(Property Tax)がほぼなくなる(数十ドル程度)という大きなメリットがあります。
また、現状を維持するための修繕に助成金が出やすかったりします。
デメリットとしては改築や増築が少し面倒かもしれないということです。
改築をする際に再度審査を受け、登録解除となるのか否か等の協議を行う必要がありますが、
登録したからといって今後改築できないわけではないので、
もし適合する可能性があれば是非挑戦してみてはいかがでしょうか。

日刊サンコラム53:歴史的建造物として自宅を登録

2019年3月28日木曜日

日刊サンコラム52:エアコンについて

常夏のハワイですが、それでも夏場は特に暑いですね。
壁や窓などは、きちんと遮光・断熱をして開口を大きくとり、
風が流れるようにデザインすればエアコンがなくても快適に過ごすことは可能ですが、
それが難しい場合にはエアコンに頼ることになります。
エアコンにも色々な種類があるので、ご紹介しましょう。

ポータブルエアコン

Portable AC

WalmartやCostcoでも普通に売られており、
工事や建築許可もいらず、最も簡単に設置ができます。
コンセントに繋いで、窓に排気用のダクトを設置するだけで利用できます。
通常の窓は四角形でダクトは円形のため、隙間を埋める作業が必要になりますが、
お父さんの日曜大工程度でなんとでもなる範囲内です。

温度を下げるとその分飽和蒸気圧が下がるため水が出てきます。
この水を排水するのは結構面倒なため、
機器内で処理してくれるものを選択することをお勧めします。

ウィンドーユニット

Window AC

ハワイのアパートや住宅でよく見られる、
窓枠にはめ込まれたエアコンです。

ポータブル同様、発熱源と冷却システム等すべてが一体化しているため工事は容易ですが、
エネルギー効率が悪く、騒音も酷いです。
また、窓枠との間に隙間ができると効率が非常に下がるので、
きちんと設置できる人にお願いしましょう。
さらに、外側には水が垂れてくるので、
コンドミニアムに設置の場合には周囲の迷惑にならないよう対処が必要です。

スプリットシステム

Split AC

日本の住宅で最もよく利用されているタイプのものです。
室外機と室内機に分かれており、室外機で水を冷却し、
その冷水を引き込んで室内の空気を冷やすシステムです。
発熱源は室外に設置することになるため、エネルギー効率がとても良いです。

設置難易度は上記二つに比べると高度で、本体価格も高値になりますが、
長期的な電気代を考慮すると安価で済むケースが多いです。

セントラルエアー

Central AC

主に商業施設や大型住宅で用いられるシステムで、
機械室で冷やした空気を各部屋に送ります。
スプリットシステムのように水を送るわけではなく、
空気をそのまま送るため、かなり大きなダクトが必要です。

機械室も同様に、大規模になり、
個々に機械設計も必要とするため初期費用は膨大ですが、
ランニングコストを抑えたり、建物全体を一元管理ができる利点があります。

日刊サンコラム52:エアコンについて