2015年11月30日月曜日

ヨーロッパ旅行記1~ロンドン編~

学術論文の審査が通り、イタリアの学会で発表することになりました。ついでにロンドンやミラノ、パリにも寄って旅行を満喫してくることに。
10月8日~10月21日の2週間ほど滞在してきました。


初めてのロンドン


ヨーロッパには去年も旅行で行き、十代の頃にも一度行きましたが、
イギリスには一度も足を踏み入れたことはなく、とても楽しみにしていました。

行く前の印象では、食べ物は美味しくない、物価は高い、いつもどんより曇っている
と悪いイメージが多かったですが、今回の旅ですべて払拭されました。

いや、物価が高いのだけは事実かもしれません。。
ホテルもお世辞にも立派とは言えないようなところが5つ星で、一泊7万円近くしました。
アメリカ基準だと2つ星ぐらいのところです。

ただ、食べ物はとっても美味しかったです。
妻が事前にレストランをリサーチ(主にTripAdvisor)でしてくれたのも大きかったと思いますが、
何料理を食べても軒並み美味しかったです。

そんな普通の旅行記みたいな話はこの辺にして…
一応建築ブログなので、建築の話をメインにご紹介していきたいと思います。

ロンドン建築


せっかくロンドンまで来たのですから、ベタな観光は一応しました。
ロンドン塔やタワーブリッジは当然一通り見てまわり。。

タワーブリッジ
タワーブリッジ


夕方にはミレニアム記念事業により建設されたロンドン・アイにのってみたり。

ロンドン・アイ
ロンドン・アイ
その向かいにあるウェストミンスター/ビッグベンを見てまわったりと、
一通り、俗に言う「観光地」は観てまわり、人並み以上に感動してきました。

ウェストミンスター
ウェストミンスター/ビッグベン
ですが、私が最も好きなのは、近代建築から現代建築なのです!
アールヌーヴォーやバウハウスなんかも好きですが、イギリスにはほぼないので今回は割愛。




ロンドンの現代建築


まず、ほとんどの観光客が行かないであろうロンドン市庁舎。

ロンドン市庁舎
ロンドン市庁舎全貌


ロンドン市庁舎
ロンドン市庁舎エントランス

こちらはタワーブリッジのすぐ側にあるので、
時間がある方はお立ち寄りされることをお勧めします。

ノーマン・フォスター
が設計した近代建築で、ヤドカリのような形をしています。
これは、表面積を極力小さくすることで、エネルギー効率が上げられるのではないか
という実験的な目論見を基に設計されたと言われています。
実際、エネルギー効率を測定してみると、あまり良い結果が出なかったのが残念ですが…。

その他にも近代・現代建築はロンドンにたくさんあります。
イス・リ本社ビルも歴史的な建物と共存して建っている様子がいかにもロンドンらしくて素敵です。
イタリアなんかではなかなかこういった光景はお目にかかれません。

スイス・リ本社
スイス・リ本社

また、200m超の超高層ビルも街中に建っています。
こちらはRogers Stirk Harbour + Partnersによる設計で、
真下から見上げた姿は圧巻です。
周囲と比べてもズバ抜けて高いので、よく目立ちランドマークとなっています。

Leadenhall Building
Leadenhall Building

ですが!今回のメインはこれではありません。
もちろん好みによると思いますが、
私はリチャード・ロジャーズ設計のロイズがとっても見たかったのです。







こちらも実験的な要素が強い建築です。
こういったコンセプトが明確で挑戦的なものが大好きです。
こちらのコンセプトはパリにあるポンピドゥセンターと同様で、
通常隠してしまう配管などを前面に押し出してしまったらどうかという試みです。

これにはいくつかの狙いがあります。
まず、大きなところとしては、機能美です。
配管がたくさん立ち並び複雑なファサードをしていますが、
どの建材をとっても必要なものばかりで構成されております。
どのように建物が機能しているのかということを見せることにより、
美しいIndustrialなファサードを表現しています。

また、機械設備というのは最も耐用年数が短い建材です。
よって、他の建材に比べて頻繁に修理や交換が必要になってくるのですが、
外に出ていることにより、それらの作業がしやすくなるという狙いもあります。

ただ、現実的には、外に露出することで経年劣化を早めてしまい、
イニシャルコストもランニングコストも通常より高くなってしまうため、
この後、あまり建築のトレンドとして流行することはありませんでした。

これはとても残念な事実でありますが、
だからこそ、このロイズは試験的に試したとっても貴重な建物の一つであるわけです。

また、実際に見て初めて気づいたのですが、
デザインが黒川紀章氏による中銀カプセルタワービルを思わせました。

中銀カプセルタワービル
中銀カプセルタワービル

4枚目の写真なんかちょっと…。。
気のせいですかね。

こちらも同じく実験的な有名な建築物なので、共通認識があればおもしろいですね。


2015年11月16日月曜日

日刊サンコラム11:デザインビルドとは?

デザインビルドとは?


前回は、一般的な建築士の役割についてご紹介しました。
施主は建築士を選定し、契約をします。
建築士は別途各種エンジニアと契約を結びコンサルタントとします。
工務店(コントラクター)については、別途施主が契約をします。

工務店と建築士は独立しているため、
図面がすべて出来上がってからでないと最終的な工事の見積もりは出ないという話をしました。
ただ、それでは困る場合が多々あるので、
そういった場合のために編み出された手法を「デザインビルド」と呼びます。

工務店と建築士が一体となる


デザインビルドでは、建築士と工務店が一体となります。
施主との契約も建築士・工務店合わせて一つしか交わされません。

通常の手法では、施工図面がすべて完成してから工務店が選定されますが、
デザインビルドではプロジェクトの最初から工務店が関わってきます。
そのことにより、設計の途中段階でも正確な見積もりがとれる上に、
デザインを選定する際に正確な金額の差を考慮に入れて決めていくことができます。
さらには、仕入れや施工に時間のかかるようなもの(レストランのキッチン周り等)は
設計の途中段階で始めてしまうことで、工期を大幅に短縮することが可能になります。

デザイビルドと通常のやり方の違い
デザインビルドと従来の方法の工期の違い

非常に効率的で、かつ無駄な予算をかける必要がなくなる可能性が高いため、
近年米国では急速に広がりつつある手法です。

デザインビルドに欠点はないのか?


一般的な手法よりも優れている点が多いように聞こえますが、
それならばなぜすべてのプロジェクトに採用しないのでしょうか。

それは、工費があがってしまう傾向があるからです。
前の段落と矛盾していると思われるかもしれませんが、
最初から工務店を選定することで、工務店同士の競争相手がいなくなるため、
出来る限り予算を下げて仕事をとろうとする姿勢はなくなってしまいます。

また、設計段階から工務店が打ち合わせに出席したり、見積もりを何度もとったりと、
こなさなければならない仕事量が増えるため、どうしても費用がかかってしまいます。

どういったプロジェクトに向いているのか


ほとんどの場合、施工費は出来る限り安く済ませたいでしょう。
そのような場合には従来の一般的な手法の方が向いています。

投資・借り入れなどの理由により、予算を完全にコントロールする必要がある場合や、
多少のお金よりも工期短縮を優先する場合に向いています。
大規模な建物ほど一ヶ月でも早く完成させることができれば、
多少の施工費の増減など簡単にペイオフできることが多いためです。

来週はさらに工期を短縮できるファーストトラックという手法についてご紹介致します。


日刊サンコラム11:デザインビルドとは
日刊サン 2015年10月7日掲載

2015年11月1日日曜日

日刊サンコラム10:建築士の役割とは?

建築士の役割とは?

日本人の方から建築設計の依頼を受ける際に、
一番最初に私がするお話があるので、今週はその一部をご紹介致します。

それは施主建築士工務店(コントラクター)の関係についてです。

建築士は施主が予め購入もしくはリースした土地に、
施主の提示するプログラムに基づいて建物をデザインし、
各種エンジニアと共に施工図面を作成し、市から建築許可をとり、
工務店と工事の確認を行います。

こう説明するとなんだかややこしいですが、
例えば新築の住宅を建てる場合で見てみましょう。



まず土地を見つけ購入し、どのような家にするか夢を膨らませると思います。
その中で家族構成や来客の頻度等で、必要な部屋数やレイアウトを決めていきます。
この設計する際のガイドライン、もしくは施主の用途に基づいた希望をプログラムと呼びます。
その後、建築士を決めて、一緒にデザインを詰めていくことになります。
エンジニアは建築士がコンサルタントとして雇います。
今回の場合ですと、Civil Engineer(土木技師)やStructural Engineer(構造設計士)、
Landscape Architect(造園設計士)等が関わってくる可能性があります。

建築士は施主からの要望を聞き入れ、
それを実現できるようすべてのコンサルタントに指示及びマネージメントをします。
施工図面が完成しましたら、市に図面を提出し、建築許可をとります。
(建築許可についてはコラム1を参考にしてください)
許可が下り次第、工務店から見積もりをとって契約を結びます。
そこからいよいよ工事に入ります。
ここで勘違いされがちな点が2つほどあります。

1. 工費の見積もりをとるのは工務店である

建築士と工務店は独立しており、
設計が終わって工務店に見積もりの依頼を出して初めて正確な工費が算出されます

もちろん、建築士も工費に関する知識はあるので、
例えば50万ドルで家を建てたい等という要望があれば、それを実現する義務があります。
もし、予算よりも工務店の見積もりの方が高い場合には、
AIA(アメリカ建築家協会)の契約書により、
建築士は無償にて図面の描き直しをすることになっています。

予算内に収まるよう最大限の努力をするのが建築士ですが、
実際見積もり金額を算出及び加減することはできないという点にご注意下さい。

2. 建築士は工事の指揮をとらない

日本と異なるのは、アメリカの建築士は通常施工監理を行いません
もし建築士が監理する必要がある場合には、基本設計料とは別に費用が必要になります。

これには責任の分担がありまして、工事の全責任は工務店が、
デザインの全責任は建築士がとれるようになっています。

よって、現場で建築士はデザイン通りにきちんと施工されているかどうかを細かくチェックしますが、
工事過程(例えば足場の組み方等)について口出ししないことにより、
双方が責任をもってきちんとした仕事をすることができます。


以上がアメリカでの基本的な建築士の役割ですが、変則パターンも数多く存在します。
次回はその一つであるデザインビルドについてご紹介します。





コラム10:建築士の役割とは?
日刊サン 2015年9月23日掲載